大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和52年(手ワ)2630号 判決

原告 中島健吾

右訴訟代理人弁護士 中西康政

被告 牧田輝己

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(申立)

原告は、つぎのとおりの判決並びに仮執行の宣言を求めた。

「被告は、原告に対し、金三〇〇万円とこれに対する昭和五二年一一月一三日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」

被告は、主文第一項同旨の判決を求めた。

(請求の原因)

原告は次のとおり述べた。

1.原告は末尾目録表示のとおりの約束手形一通を所持している。

2.被告は右手形を振り出した。

3.本件手形は、被告と訴外鈴屋食品こと山本正雄の共同振出にかかるものである。被告の署名押印が本件手形の「振出人」と印刷されている欄になされているのであるから、被告は、振出人としての責任を免れえない。

4.よって被告は原告に対し右手形金元本と次の附加金の支払義務がある。

右手形金に対する本件訴状(支払命令)送達の日の翌日から完済まで商法所定率による延滞損害金。

(被告の答弁等)

被告は次のとおり述べた。

1.2.3.は否認。

証拠関係〈省略〉

理由

一、まず、被告が本件手形を振り出したとみられるかどうかの点について判断する。

鈴屋食品こと山本正雄及び被告の署名・押印について成立に争いのない甲第一号証によれば、次の事実が認められる。

本件手形に使用された用紙には、その右上部に点線で横長四角の囲みが印刷されてあり、これがさらに横点線で三つの部分に区画され上から順に「支払期日」、「支払地」、「支払場所」の各欄とされている。下方から約一六ミリメートル上のところに用紙の左端から右端にわたって横点線が印刷されていて、上方部分と下方にある分類用の数字・記号の印刷されている部分とを分けている。左上方には、収入印紙貼用場所が点線で印刷されている。以上のほかには、用紙の一部を点線等で他の部分に対し区画しているところはない。そして、用紙の左約半分の部分に、上から「約束手形」という文字、受取人欄としての「殿」の文字、金額欄としての「金額」の文字及びいわゆる支払約束文言がいずれも左横書に印刷されているのに続いて、振出日欄としての「昭和年月日」、「振出地」、「住所」及び「振出人」の各文字が、いずれも右支払約束文言の左端に左端を揃えて上から順次左横書で印刷されている。用紙の左端から、右印紙貼用場所の下辺の線、支払約束文言の行、前記横長四角の下辺の線並びにその右に印刷されている「No.」の下の点線まで、順次目を移すと、これらがあたかも連続した線として用紙の上下の部分を区分しているような感を受けないではないが、これらは連続するものではなく、右のような区分をしているものでもない。そして、右受取人欄には「中島健吾」とペン書で、金額欄には「¥3,000,000.★」とチェックライターで、振出日欄には「52 4 20」とペン書で、それぞれ記入されているほか、「振出地」の右に「茨木市」とペン書で記入され、右「住所」及び「振出人」の右及び右下方部分に、記名印により「茨木市東中条町9の34」、「鈴屋食品」及び「山本正雄」の各文字が順次三行にいずれも左横書で記入されており、右三行は、いずれも本件手形の左半分のうちに納っている。(山本正雄の押印はない。)

ところで、被告の署名は、右「山本正雄」の記載の右方に約一五ミリメートルをへだてて、支払約束文言の末尾のわずかに左に当る部分の下方約三〇ミリメートルの点から右方へ、前記下方部分と区分する点線の上に約四五ミリメートルにわたって記載されており、その右に接して被告の押印があり、右署名・押印は、いずれも本件手形の右半分に納っている。(被告の住所の記載はない。)

以上の事実によれば、被告の署名は、これが原告主張のように「振出人欄」に記載されたものとして、あるいは、振出人である山本正雄の名と併記されているものとして、これを振出人としての署名とみるのは相当でなく(共同振出人の記載とするためには、余白の関係上、必ずしも容易ではないとしても約束手形の左半分に上下に併記するか、被告の署名に「振出人」の肩書を附する等のことにより振出人としての署名であることを明らかにしなければならない。)、手形法第七七条第三項、第三一条第三項により保証とみなされる署名とみるのが相当である。

二、したがって、被告が本件手形を振り出したことを前提とする原告の請求は、その他の点について判断するまでもなく、失当としてこれを棄却しなければならない。

右の事由により民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 楠賢)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例